キャラコさんは、こんな事をかんがえながら、一方では、穴ぼこのなかからやさしく佐伯氏を助け起こしている。
どんなに腹を立てようと思っても、どうしても思うようにならない。
キャラコさんは、幻想を払いのけるために、えへん、と大きな咳払いをする。
「こんなことじゃしようがないわ」
自分があまり感傷的《センチメンタル》なのが不愉快になってきた。
「むやみにひとに同情しやすくて困るわね。だから、みなあたしのことを馬鹿だと思っている。もう、十九にもなったんだから、そろそろこんな性質にうち勝たなくては!」
キャラコさんは、額に皺《しわ》をよせむずかしい顔をしながら、決心する。
「ともかく、もっと強い意志を持つことだわ! あんな意地の悪いひとなど放っておけばいい」
これで、ようやく安心する。枕を置き直して眼をつぶる。
間もなく眠くなってきた。
キャラコさんは、うつらうつらした半睡《はんすい》の中で、あす早く起きて、佐伯氏が散歩する道の石ころをみな取りのけておこうとかんがえていた……。
三
次の日の夕方、いつものように疏水《そすい》のほうへ散歩に行くと、佐伯氏がそこの枯蘆《
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