ラコ」のキャラは、白檀《びゃくだん》、沈香、伽羅《きゃら》の、あのキャラではない。キャラ子はキャラコ、金巾《かなきん》のキャラコのことである。
 剛子がキャラコの下着《シュミーズ》をきているのを従姉妹《いとこ》たちに発見され、それ以来、剛子はキャラ子さんと呼ばれるようになった。
 ある日、社交室の満座のなかで、槇子《まきこ》がキャラコの由来を披露したので、みなが腹をかかえて笑い、思いつきのいいのに感服した。
 すこし手ざわりの荒い、しゃちこばった、この貧乏な娘にいかにもふさわしい愛称だと思われたからである。それで、だれもかれもがこの愛称で剛子を呼ぶようになった。
 剛子はこういう愛称でよばれるのをかくべつ不服には思わない。キャラコの下着《シュミーズ》をきていることを別に恥だとかんがえないからである。垢《あか》じみた絹の下着《シュミーズ》をひきずりまわすよりは、サッパリとして、清潔なキャラコを着ている方がよっぽどましだと思っている。そして、これがまた父の意見でもあったのである。
 長六閣下は、いつも、こういう。
「絹ではいかんな。木綿のような女でなくてはいかん」
 剛子の一家は、父の光栄
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