キャラコさん
社交室
久生十蘭

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)初島《はつしま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)山田|和市《わいち》氏

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]
−−

     一
 青い波のうねりに、初島《はつしま》がポッカリと浮んでいる。
 英国種の芝生が、絨氈《じゅうたん》を敷いたようにひろがって、そのうえに、暖い陽《ひ》ざしがさんさんとふりそそいでいる。
 一月だというのに桃葉珊瑚《ておきば》の緑が眼にしみるよう。椿の花が口紅《ルウジュ》のように赤い。
 正月も半ばすぎなので、暮から三《さん》ガ日《にち》へかけたほどの混雑はないが、それでも、この川奈《かわな》の国際観光ホテルには、ここを冬の社交場にする贅沢《ぜいたく》なひとたちが二十人ほど、ゴルフをしたり、ダンスをしたり、しごくのん気に暮らしている。
 時節柄、外国人の顔はあまり見えず、三階の南側のバルコンのつい
次へ
全61ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング