、少女は既に結婚して夫と欧州へ行ったあとでした。私は及ぶかぎりの方法をもって捜索させましたがわかりませぬ。
……今から十五年前、私があらゆる事業から手をひいて欧羅巴《ヨーロッパ》へ渡りましたのも、畢竟、私の生涯をかけてその少女の所在をたずねようためでした。……それから七年目、つまり昨年《きょねん》の春、ふとした手がかりで、その少女がアントワープにいることをつきとめましたが、私がまいりました時は既にこの世のひとではなかったのです。
……そういうわけで、私は私の相続人を探すために日本へ帰ってまいりました。……私は自分の相続人の条件をこんな風にきめました。……年は十九から廿歳までの、心から私に親切にしてくれる少女……。必ずしも、いい趣味とはもうされませんが、私の気持だけは、たぶんおわかりくださるでしょう。
……ところで、日本へ帰って来て見ますと、日本の変り方はたいへんなものでした。ことに、少女の性情の変り方は、ほとんど信じられないくらいでした。この一年間、探《たず》ねているような少女に私はとうとうめぐり合うことはできませんでした。
私がこのホテルへついたとき、私は、ほとほと疲れてしま
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