間切《こまぎ》れをいくつもつくっている。
 沼間夫人は食堂の電気時計と自分の腕時計をたがいちがいに見くらべながら、
「いやだ……。ほんとうに、なにかあったんじゃないかしら」
 キャラコさんは中腰になって、
「あたし、行って見ましょうか」
 夫人は、白眼をキラリと光らせて、
「行くって、どこへ?」
「そのへんまで」
 氷のような冷たい声で、沼間夫人がいう。
「よしてくださいね。あまり目立つようなことは、あなたにたのまなくても、いくらでも探す方法はあります」
 キャラコさんは素直にあやまる。
「ごめんなさい」
 そこへ、槇子が帰って来た。ひどく赤い顔をしているので、キャラコさんは槇子が風邪でもひいたのかと思った。
 ひょろひょろしながら三人の食卓の方へやってくると、不機嫌な顔で椅子にかけてナプキンをとりあげた。
 沼間夫人は安心と腹立ちがいっしょになったような声で、
「もっと、ちゃんとしてくださいね。いままでどこにいたの」
「傷病兵の慰問に行っていたんです」
 マヤ子は意地の悪い上眼づかいで、ジロジロと槇子の顔を眺めていたが、
「おい、酒くさいぞ」
 と、すっぱぬいた。
「なにおォ」
「つ
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