、猶ほ親族と會ふが如し。
是れに由つて
二〇八 彼の賢く、智ある、多く學べる、忍辱なる、戒を具せる、聖き、是の如き善士聰慧者に隨ふべし、月の星宿を行くが如く。
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第十六 愛好の部
二〇九 不相應に相應し、相應に相應せず、實義を捨てて可愛を執取する人は自ら相應する人を妬む。
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相應―原語は瑜伽にして、又は觀行起行の義あり、若し心と境との相應と解すれば觀行の義となり、若し力と境との相應と解すれば起行の義となる。
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二一〇 所愛と會ふ勿れ、決して非愛と(會ふ勿れ)、所愛を見ざるは苦なり、又非愛を見るも(苦なり)。
二一一 故に愛を造る勿れ、所愛を失ふは災なり、愛非愛なき人には諸の繋累あることなし。
二一二 愛より憂を生じ、愛より畏を生ず、愛を離れたる人に憂なし、何の處にか畏あらん。
二一三 親愛より憂を生じ、親愛より畏を生ず、親愛を離れたる人に憂なし、何の處にか畏あらん。
二一四 愛|樂《げう》より憂を生じ、愛樂より畏を生ず、愛樂を離れたる人に憂なし、何の處にか畏あらん。
二一五 愛欲より憂を生じ、愛欲より畏を生ず、愛欲を離れたる人に憂なし、何の處にか畏あらん。
二一六 渇愛より憂を生じ、渇愛より畏を生ず、渇愛を離れたる人に憂なし、何の處にか畏あらん。
二一七 戒と見とを具へ、正しく、實語し、自の所作を作す人は衆に愛せらる。
二一八 無名を希望し、作意して怠らず、心諸欲に拘礙せられざれば、彼は上流と名づけらる。
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無名―涅槃
上流―生死の流を上る義なれば涅槃に近づける人のことなり、若し後世の學者風の解釋に依れば所謂上流般涅槃にして不還の一なり。
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二一九 久しく遠方に行き安全にして還る人を親戚及び朋友が歡こんで迎ふる如く、
二二〇 是の如く福を造り此の世より他(世)に往ける人は、福業に迎へらる、還り來れる所愛が親戚に(迎へらるゝが)如く。
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第十七 忿怒の部
二二一 忿を棄てよ、慢を離れよ、一切の結を越えよ、精神と物質とに著せざる無所有の人に諸苦隨ふことなし。
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結―人を結縛するもの即ち煩惱。
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二二二 若し人己に發せる忿を制すること奔車を(止むるが)如くなれば、彼を我は御者と言ふ、爾らざる人は(唯だ)※[#「革+橿のつくり」、第3水準1−93−81]《たづな》を取る(のみ)。
二二三 不忿を以て忿に勝て、善を以て不善に勝て、施を以て慳に勝て、實語を以て妄語者に(勝て)。
二二四 實を語れ、忿る勿れ、乞はるゝときは(己の物)少なしと雖も之を與へよ、此の三事によりて天處に往くを得ん。
二二五 諸の賢人若し常に身を護り、害せざるときは、不死の處に往く、往き已《をは》りて愁へず。
二二六 人恆に覺寤し、晝夜に勤學し、涅槃を信解すれば(彼の)心穢は滅盡す。
二二七 阿覩羅よ、此れ古より言ふ所、今日に始まるに非ず、(謂く)人は默して坐するを毀り、多言を毀り、少言をも亦毀る、世に毀られざる人なし。
二二八 已《すで》に有らず、亦當に有らず、又現に有らず、一向に毀られたる人、或は一向に讚められたる人。
二二九 若し智者が判斷して日々稱讚するなれば、彼は行缺くることなく聰敏にして慧戒具足し、
二三〇 閻浮陀金《えんぶだごん》の莊嚴具の如し、誰か彼を毀り得んや、諸神も彼を讚す、梵天すら彼を讚す。
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閻浮陀金―最も上等な黄金。
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二三一 身の怒を護れ、身を覆護すべし、身惡行を捨てて身にて妙行を行へ。
二三二 語の怒を護れ、語を覆護すべし、語惡行を捨てて語にて妙行を行へ。
二三三 意の怒を護れ、意を覆護すべし、意惡行を捨てて意にて妙行を行へ。
二三四 身を護り又語を護る賢人は、(又)意を護る賢人は實に能く護れるなり。
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第十八 塵垢の部
二三五 汝は今や枯れたる葉の如し、閻魔の使者汝の傍に近づく、汝今死別の門に立つ、されど汝に(前途の)資糧あることなし。
二三六 汝己の歸依處を造れ、疾く勤めよ、賢くあれ、垢を去り穢なきものは天の聖處に往くべし。
二三七 汝|今《いま》壯年已に過ぎ、閻魔の傍に立つ、されど(死して閻魔の處に到る)中間に汝の住處なし、亦汝に(前途の)資糧もあることなし。
二三八 汝己の歸依處を造れ、疾く勤めよ、賢くあれ、垢を去り穢なきものは、再び生と老に近づかざるべし。
二三九 賢人は漸々に分々に刹那刹那に、鍛工が銀の(垢を除くが)如く己の垢を除くべし。
二四〇 鐵より生ぜる錆は、鐵より生じて正に鐵を食ふが如く、是の如く不淨の行者は、自の業に由つて惡趣に導かる。
二四一 不誦を曼怛羅の垢とし、不勤を家の垢とし、懈怠を色の垢とし、放逸を護者の垢とす。
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曼怛羅―古印度宗教の聖典なる吠陀の本文にして婆羅門の朝夕應に誦すべきもの。
不勤云々―人家業を治めざれば家道窮廢するをいふ。
懈怠云々―人若し洗淨嚴飾に怠れば何物も不潔となり其の美色を失ふを云ふ。
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二四二 不貞を女の垢とし、慳を施者の垢とし、惡の所行を今世及び後(世)の垢とす。
二四三 無明は此等垢中の垢、第一の垢なり、比丘衆よ、此の垢を絶ちて無垢なれ。
二四四 慚なく、強顏に、惡性に、驕傲に、大膽に、敗徳の人には生活は易し。
二四五 然るに、慚あり、常に清淨を求め、執著なく、謙讓に、清淨に活命し、智見ある人には生活は難し。
二四六 人若し動物を殺し、妄語を爲し、世の中に於て與へざるを取り、他の妻を犯し、
二四七 ※[#「穴かんむり/卒」、第4水準2−83−16]羅、迷麗耶酒に沈湎するならば、現世に於て既に彼は己の根を掘るものなり。
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※[#「穴かんむり/卒」、第4水準2−83−16]羅―穀類を※[#「酉+榲のつくり」、第3水準1−92−88]して成る酒。
迷麗耶―根莖花果等を※[#「酉+榲のつくり」、第3水準1−92−88]して成る酒。
己の根を掘る―己を亡ぼすを云ふ。
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二四八 人よ、是の如く知れ、制御なきは惡なり、貪欲と非法とをして永く汝を苦しめ、損害せしむる勿れ。
二四九 人は所信に隨ひ所好に隨ひ施與す、人若し他人の(施せる)飮食に於て(我の得たるは或は少或は※[#「鹿/(鹿+鹿)」、第3水準1−94−76]なりと謂うて)羞恥を懷くときは晝も夜も彼は心の安定を得るに由なし。
二五〇 人若し此の(羞恥)を斷ち、根絶し、全く害するときは、晝も夜も彼は心の安定を得べし。
二五一 貪に比すべき火なく、瞋に比すべき執なく、癡に比すべき網なく、愛に比すべき河なし。
二五二 他の過失は見易けれど自の(過失は)見難し、他の過失は※[#「禾+康」、69−5]秕の如く簸※[#「風にょう+昜」、第3水準1−94−7]すれど、自の(過失)は狡猾なる博徒が不利の骰子の目を隱すが如くす。
二五三 人若し他人の過失を※[#「不/見」、第3水準1−91−88]め、常に輕侮すれば彼の心穢増長す、心穢盡を去ること遠し。
二五四 虚空に(鳥の)跡なく、外道に沙門なく、愚夫は戲論を樂ふ、如來に戲論なし。
二五五 虚空に(鳥の)跡なく、外道に沙門なく、有爲に常住なく、佛陀に動亂なし。
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有爲―總ての集合體を云ふ。
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第十九 住法の部
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住法―正義。
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二五六 輕卒に公事を裁斷するは正しきに非ず、智者は實義と不實義との兩面を辨へよ。
二五七 暴威を用ゐず、公平に他を導き、正義を守り聰明なり、(是れ)住法者と謂はる。
二五八 多く説くのみにては智者に非ず、穩かに、憎みなく、畏れなきは智者と謂はる。
二五九 多く説くのみにては持法者ならず、若し少法を聞きても、之を身に履修すれば、實に持法者なり、彼は法を忽にせず。
二六〇 頭髮白ければとて長老ならず、彼の齡熟し空しく老いたりと謂ふべきのみ。
二六一 人若し諦《まこと》と法と不害と禁戒と柔善とあれば、彼こそ已に垢を吐きたる聰き長老と謂はる。
二六二 唯言説のみに由り、又は顏色の美しきに由り、嫉妬、慳悋、諂曲の人は善人とならず。
二六三 人若し此等を斷ち、根絶し、全く害すれば、已に過失を吐ける聰き善人と謂はる。
二六四 頭を剃ると雖も無戒にして妄語すれば沙門に非ず、欲貪を具ふるもの如何ぞ沙門ならん。
二六五 人若し※[#「鹿/(鹿+鹿)」、第3水準1−94−76]細一切の罪過を止むれば、罪過の止息せるがため沙門と謂はる。
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沙門―勤勞又は行者の義なれども、其音又「止息」の義に通ずるを以て斯く言ふ。
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二六六 他に乞ふのみにては比丘ならず、一切の所應行を服膺するのみにては比丘ならず。
二六七 人若し現世に於て罪福を離れて淨行に住し、愼重にして世を行けば眞の比丘と謂はる。
二六八 愚昧無智なれば寂默に住すと雖も牟尼(寂默)ならず、智者は衡を執るが如く、善を取り、
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寂默―無言の戒。
牟尼―寂默の義又は賢人の義、寂默と牟尼と音通ずるを以て斯く言ふ。
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二六九 惡を避くれば、此の牟尼こそ眞の寂默なれ、人若し世に於て(善惡の)兩《ふたつ》を量れば夫に由つて牟尼と謂はる。
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量る―この語も、牟尼と音相通ずれば斯く言ふ。
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二七〇 生を害するを以て阿梨耶なるに非ず、一切の生を害せざるに由つて阿梨耶と謂はる。
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阿梨耶―「聖」の義なるも、又「敵」と云ふ語に音近きを以て斯く言ひしものか。
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二七一 我は唯禁戒を持ち、或は復《また》多く學び、又は心の安定を得、或は閑靜處に住みて、
二七二 (此に由つて)凡夫の習はざる出離樂を證せず、比丘よ、未だ心中の穢を盡さずんば意を安んずる勿れ。
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第二十 道の部
二七三 諸道の中にて八支を勝とし、諸諦の中に於て四句を(勝とし)、諸徳の中に於て離欲を勝とし、二足の中に於て具眼を(勝とす)。
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八支―正見、正思惟、正語、正業、正命、正精進、正念、正定の八は解脱涅槃に到る要道なれば之を八支聖道と名づく。
四句―苦、集、滅、道の四は本來自然の定則なれば之を四聖諦と名づく。
具眼―佛陀を指す。
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二七四 是れ即ち正しき思想の道なり、他に(正しき思想の)道なし、汝等是を實行せよ、此(の世)は魔羅の幻化なり。
二七五 汝等此(の道)を實行すれば當に苦を盡すべし、我已に(毒)箭の除滅することを悟り、汝等に道を説く。
二七六 汝等須らく勗めよ、如來は説者なり、思惟して修行する人は魔の縛を脱る。
二七七 總て造作《ざうさ》せられたる物は無常なり、と、慧にて知るときは是に由つて苦を厭ふ、是れ淨に到る道なり。
二七八 總て造作せられたる物は苦なり、と、慧にて知るときは是に由つて苦を厭ふ、是れ淨に到る道なり。
二七九 諸法は無我なり、と、慧にて知るときは是に由つて苦を厭ふ、是れ淨に到る道なり。
二八〇 起くべき時に起きず、壯く、強くして、※[#「りっしんべん+頼」、76−6]惰に思惟思量に弱く、懈たり、怠る人は、慧に由つて道を知ることなし。
二八一 語を愼しみ、意を護り、身に不善を造らず、此の三業道を淨めよ、(大)仙所説の道を得ん。
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大仙―佛。
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二八二 實《げ》に觀行より智を生ず、不觀行より智を盡す、此の利と不利との二の道を知り自ら修して智を増さしむべし。
二八三 林を伐れ、樹を伐る勿れ、林より怖畏を生ず、林と株とを伐りて、比丘衆よ、無林となれ。
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