である、不完全であると云ひながら、其有限不完全なる人智を以て、完全なる標準や、無限なる實在を研究せんとする迷妄を脱却し難いことであつた。私も以前には、眞理の標準や善惡の標準が分らなくなつては、天地も崩れ社會も治まらぬ樣に思うたることであるが、今は眞理の標準や善惡の標準が、人智で定まる筈がないと決着して居りまする。
扨又如來は無限の能力であるが故に、信念によりて、大なる能力を私に、賦與し給ふ。私等は通常、自分の思案や分別によりて、進退應對を決行することであるが、少し複雜なことになると、思案や分別が、容易に定まらぬ樣になる。それが爲に、段々研究とか考究とか云ふことをする樣になると、而して、前に云ふが如き標準とか實在とか云ふ樣なことを、求むることになりて見ると、行爲の決着が次第に六ヶ敷なり、何をどうすべきであるやら、殆ど困却の外はない樣なことになる。言葉を愼まねばならぬ、行を正しくせねばならぬ、法律を犯してはならぬ、道徳を壞りてはならぬ、禮儀に違うてはならぬ、作法を亂してはならぬ、自己に對する義務、他人に對する義務、家庭に於ける義務、社會に於ける義務、親に對する義務、君に對する義務、夫に對
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