する義務、妻に對する義務、兄弟に對する義務、朋友に對する義務、善人に對する義務、惡人に對する義務、長者に對する義務、幼者に對する義務等、所謂人倫道徳の教より出づる所の義務のみにても、之を實行することは決して容易のことでない。若し眞面目に之を遂行せんとせば、終に「不可能」の歎に歸するより外なきことである。私は此「不可能」に衝き當りて、非常なる苦みを致しました。若し此の如き「不可能」のことの爲に、どこ迄も苦まねばならぬならば、私はとつくに自殺も遂げたでありませう。然るに、私は宗教により、此苦みを脱し、今に自殺の必要を感じませぬ、即ち、私は無限大悲の如來を信ずることによりて、今日の安樂と平穩とを得て居ることであります。
 無限大悲の如來は、如何にして、私に此平安を得しめたまふか。外ではない、一切の責任を引き受けて下さるゝことによりて、私を救濟したまふことである。如何なる罪惡も、如來の前には毫も障りにはならぬことである。私は善惡邪正の何たるを辨ずるの必要はない。何事でも、私は只自分の氣の向ふ所、心の欲する所に順從《したが》うて之を行うて差支はない。其行が過失であらうと、罪惡であらうと、少しも懸
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