す。そうすると、和太郎さんの家はほろびてしまいます。
 お嫁さんはいらないが、子どもがほしい、とよく和太郎さんは考えるのでありました。

       三

 人間はほかの人間からお世話になるとお礼をします。けれど、牛や馬からお世話になったときには、あまりいたしません。お礼をしなくても、牛や馬は、べつだん文句《もんく》をいわないからであります。だが、これは不公平な、いけないやり方である、と和太郎さんは思っていました。なにか、よぼよぼの牛のたいそう喜ぶようなことをして、日ごろお世話になっているお礼にしたいものだ、と考えていました。
 すると、そういうよいおりがやってきました。
 百姓《ひゃくしょう》ばかりの村には、ほんとうに平和な、金色《こんじき》の夕ぐれをめぐまれることがありますが、それは、そんな春の夕ぐれでありました。出そろって、山羊《やぎ》小屋の窓をかくしている大麦の穂の上に、やわらかに夕日の光が流れておりました。
 和太郎さんは、よぼよぼ牛に車をひかせて、町へいくとちゅうでした。
 和太郎さんは、いつもきげんがいいのですが、きょうはまたいちだんとはれやかな顔をしていました。酒《さ
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