持っていきなさい」
と、和太郎さんはいいました。
お嫁さんはたくさんのおみやげをかかえこんで、戸口を出ていいました。
「それじゃ、いってまいります」
「ああいけや」と和太郎さんはいいました。
「そうして、もう、ここへこなくてもよいぞや」
お嫁さんはびっくりしました。しかしいくらお嫁さんがびっくりしたところで、和太郎さんの心は、もうかわりませんでした。
こうして、和太郎さんはお嫁さんとわかれてしまいました。
そののち、あちこちから、お嫁さんの話はありましたが、和太郎さんはもうもらいませんでした。ときどき、もういっぺんもらってみようか、と思うこともありましたが、壁を見ると、「やっぱり、よそう」と、考えがかわるのでした。
しかし、お嫁さんをもらわない和太郎さんは、ひとつ残念《ざんねん》なことがありました。それは子どもがないということです。
おかあさんは年をとって、だんだん小さくなっていきます。和太郎さんも、今は男ざかりですが、やがておじいさんになってしまうのです。牛もそのうちには、もっとしりがやせ、あばら骨がろくぼく[#「ろくぼく」に傍点]のようにあらわれ、ついには死ぬので
前へ
次へ
全32ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング