か》だるをつんでいたからであります。
酒だるを、となり村の酒屋から、町の酢屋《すや》まで、とどけるようにたのまれたのです。その中には、お酒のおり[#「おり」に傍点]がつまっていました。おり[#「おり」に傍点]というのは、お酒をつくるとき、たるのそこにたまる、乳色のにごったものであります。
酒だるはゆれるたびに、どぼォン、どぼォン、と重たい音をたてました。そしてしずかな百姓の村の日ぐれに、お酒のにおいをふりまいていきました。
和太郎さんは、はれやかな顔をしながら、いつもこういう荷物をたのまれたいものだ、音を聞いているだけでしゃば[#「しゃば」に傍点]の苦しみを忘れる、などと考えていました。するととつぜん、ぼんと音がしました。
見ると、ひとつのたるのかがみ[#「かがみ」に傍点]板が、とんでしまい、ちょうど車が坂にかかって、かたむいていたので、白いおり[#「おり」に傍点]が滝《たき》のように流れ出していました。
「こりゃ、こりゃ」
と和太郎さんはいいましたが、もうどうしようもありませんでした。おり[#「おり」に傍点]は地面にこぼれ、くぼんだところにたまって、いっそうぷんぷんとよいに
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