おいをさせました。
 においをかいで、酒ずきの百姓や、年よりがあつまってきました。村のはずれに住んでいる、おトキばあさんまでやってきたところを見ると、おり[#「おり」に傍点]のにおいは、五町も流れていったにちがいありません。
 みんながあつまってきたとき、和太郎さんは車のまわりをうろうろしていました。
 「こりゃ、おれの罪じゃない。おり[#「おり」に傍点]というやつは、ゆすられるとふえるもんだ。牛車《ぎゅうしゃ》でごとごとゆすられてくるうちに、ふえたんだ。それに、このぬくとい陽気だから、よけいふえたんだ」
と和太郎さんは、旦那《だんな》にするいいわけを、村の人びとにむかっていいました。
 「そうだ、そうだ」
と人びとはあいづちをうちながら、道にたまった、たくさんのおり[#「おり」に傍点]をながめて、のどをならしました。
 「さて、こりゃ、どうしたものぞい。ほっときゃ土がすってしまうが」
と、年とった百姓がわらすべ[#「わらすべ」に傍点]をおり[#「おり」に傍点]にひたしては、しゃぶりながらいいました。
 ほんとに、ほっとけば土がすってしまう、とみんなが思いました。そのとき和太郎さんがい
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