いことを思いついたのでした。
 和太郎さんは、牛をくびき[#「くびき」に傍点]からはなしました。そして、こぼれたおり[#「おり」に傍点]のところにつれていきました。
 「そら、なめろ」
 牛は、おり[#「おり」に傍点]の上に首をさげて、しばらくじっとしていました。それは、においをかいで、これはうまいものかまずいものか、と判断しているように見えました。
 見ている百姓たちも、いきをころして、牛は酒を飲むか飲まぬか、と考えていました。
 牛は舌を出して、ぺろりとひとなめやりました。そしてまたちょっと動かずにいました。口の中でその味をよくしらべているにちがいありません。
 見ている百姓たちは、あまりいきをころしていたので、胸が苦しくなったほどでありました。
 牛はまた、ぺろりとなめました。そしてあとは、ぺろりぺろりとなめ、おまけに、ふうふうという鼻いきまで加わったので、たいそういそがしくなりました。
 「牛というもなァ、酒の好きなけものとみえるなァ」
と村びとのひとりが、ためいきまじりにいいました。
 ほかのものたちは、じぶんが牛でないことをたいそうざんねんに思いました。
 和太郎さんは、牛
前へ 次へ
全32ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング