がおいしそうにおり[#「おり」に傍点]をなめるのを喜んで見ていました。
 「おォよ。たべろたべろ。いつもおまえの世話になっておるで、お礼をせにゃならんと思っておったのだ。だが、おまえが酒ずきとは知らなかったのだ」
 牛はてまえのおり[#「おり」に傍点]がなくなると、ひと足進んで、むこうのおり[#「おり」に傍点]をなめました。
 「牛てもな、大酒《おおざけ》くらいだなァ」
と村びとのひとりが、ほしいもののもらえなかった子どものように、なげやりにいいました。
 「いくらでもええだけたべろ」と和太郎さんは、牛の背中《せなか》をなでながらいいました。
 「ようまでたべろ。よってもええぞ、きょうはおれが世話してやるで。きょうこそ、一生に一ぺんのご恩がえしだ」
 ついに牛は、おり[#「おり」に傍点]をなめてしまい、土だけが残りました。もうあたりはうす暗くなっていました。和太郎さんはまた牛をくびき[#「くびき」に傍点]につけました。
 青い夕かげが流れて、そこらの垣根《かきね》の木いちごの花だけが白くういている道を、腹いっぱいたべた牛と、日ごろのご恩をかえしたつもりの和太郎さんが、ともに満足をおぼえ
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