て壁《かべ》の方を見ていることでありました。
和太郎さんは、十日間それをだまって見ていました。お嫁さんはあいかわらず、壁の方に顔をむけてご飯をたべるのでありました。
とうとう和太郎さんは、がまんができなくなって、ききました。
「おまえは、首をそういうふうに、ねじむけておかないと、ご飯がのどを通っていかないのかや。それとも、うちの壁に、なにかかわったことでもあるのかや」
するとお嫁さんは、なにもこたえないで、箸《はし》を持った手をひざの上においたまま、うつむいてしまいました。
あとでふたりきりになったとき、お嫁さんは小さな声で和太郎さんにつげました。
「わたしは、おかあさんのつぶれたほうの目を見ると、気持ちがわるくなるのです。つぶれて、赤い肉が見えているでしょう。あれを見てはご飯がのどを通らないので、横をむいているのです」
「そうか、だがおかあさんは、遊んでいて目をつぶしたのじゃないぞや。田の草をとっていて、稲の葉先でついたのがもとで、あの目をつぶしたのだぞや」
と、和太郎さんはいいました。
「わたしは、どういうもんか、あのつぶれた目の赤い肉の色を見ると、気持ちがわるくな
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