るのです」
と、お嫁さんはまたいうのでした。
「だが、おかあさんは、稲でついて目をつぶしたのだぞや。そんなにして、わしをそだててくれたのだぞや」
「でも、わたしは、あのつぶれた目を見ていては、ご飯がのどを通りません」
和太郎さんはおかあさんとふたりきりになったとき、おかあさんに話しました。
「おチヨは、おかあさんのつぶれたほうの目を見ていると、気持ちがわるくて、ご飯がのどを通らんそうです」
それを聞くと、年とったおかあさんは、豆をたたくのをやめて、しばらく悲しげな顔をしていました。そしていいました。
「そりゃ、もっともじゃ。こんなかたわを見ていちゃ、若いものには気持ちがよくあるまい。わしはまえから、嫁ごがきたら、おまえたちのじゃまにならぬように、どこかへ奉公に出ようと思っていたのだよ。それじゃ、あしたから桝半《ますはん》さんのところへ奉公にいこう。あそこじゃ飯たきばあさんがほしいそうだから」
つぎの日、年とったおかあさんは、すこしの荷物をふろしき包みにして、日ざかりにこうもりがさをさして家を出ていきました。門先《かどさき》のもえるようにさきさかっているつつじのあいだを通っ
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