になるのです。二、三町も歩くと、和太郎さんは「夜道はこうも遠いものか」と考えはじめるのです。そして手綱を牛の角《つの》にひっかけておいて、じぶんは車の上にはいあがります。
こうすれば、もう夜道がどんなに遠くても、和太郎さんにはかまわないわけです。ただ、ねむっているあいだに、車からころげ落ちないように、荷をしばりつける綱を輪にして、じぶんのあごにひっかけておくことを忘れてはいけないのです。
目がさめると、和太郎さんは、じぶんの家の庭にきています。牛がちゃんと道を知っていて、家へもどってきてくれるのです。
こんなことはたびたびありました。いっぺんも、牛は道をまちがえて、和太郎さんを海の方へつれていったり、知らない村の方へひいていったことはなかったのです。
だから和太郎さんにとって、この牛はこんなよぼよぼのみすぼらしい牛ではありましたが、たいへん役にたつよい牛でありました。もし、次郎左《じろうざ》ェ門《もん》さんのすすめにしたがって、この牛を売って若い元気な牛とかえたとしたら、こんど和太郎さんがよっぱらうとき、どこで目がさめるかわかったものではありません。十里さきの名古屋《なごや》の
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