「やい、和太」と村でりこうもんの次郎左《じろうざ》ェ門《もん》さんがいいかけました。「おぬしは、村じゅうのもんにえらい迷惑をかけたが、知っとるかや。おれたち、村のもんは、ゆうべひとねむりもせんで、山から谷から畑から野までかけずりまわって、おぬしをさがしたのだが、おぬしは、それに対してだまっておってええだかや」
これでは次郎左ェ門さんもそうさく隊にはいっていたようにきこえますが、ほんとうは、ついさっきまで家でねていたのです。
和太郎さんは、次郎左ェ門さんのことばをきくと、びっくりしました。たいそう村の人たちにすまないと思いましたので、「そいつァ、すまなかったのォ」と十三べんもいって、そのたびに頭をかいたり、背中《せなか》をかいたりしました。そして、牛もじぶんもよってしまったので、こんなことになってしまった、と説明しました。
村の人たちはいい人ばかりなので、じきに、腹がおさまりました。そこでこんどは、いろいろ和太郎さんにききはじめました。
「和太さん、それで、いままでどこをうろついていただィ」
と、亀徳《かめとく》さんがききました。
和太郎さんは首をかしげて、
「どこだか、はっ
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