もう仕事にいくのかと、みんなはぼんやりした目で見ていました。
牛車が駐在所の前を通るとき、のっていた男が、
「おい、おまえら、朝早いのう。きょうは道ぶしんでもするかえ」
といいました。
見たことのある男だと思って、みんながよく見ると、それが和太郎さんだったのです。
「なんだやい。おれたちァ、おまえをさがして夜じゅう、山ん中を歩いておっただぞィ」
と、亀菊《かめぎく》さんがいいました。
「ほうかィ。そいつァはご苦労だったのォ」
といって、和太郎さんは牛車から下りもせずに、家の方にいってしまいました。
「なんのことか」と、村びとたちはあいた口がふさがりませんでした。こんなことなら、大さわぎして山の中をさがしまわるなど、しなくてもよかったのです。
これは、和太郎さんをみんなで、しかりつけてやらねばならないと、年より連中《れんちゅう》はいいました。それでないとくせになるから、というのでした。そこでみんなはねむい目をこすりながら、和太郎さんの家につめかけていきました。
和太郎さんは庭で、よぼよぼ牛をくびき[#「くびき」に傍点]からはずして、たらいに水をくんで飲ませていました。
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