待っていました。
そのうちに、年とってすすびた柱時計は、しばらくぜいぜいと、ぜんそく[#「ぜんそく」に傍点]持ちのおじいさんのようにのどをならしていてから、長いあいだかかって、十一時を打ったのでありました。
いつも十一時が打つころには、外に車の音がきっとしてくるのでした。今夜はどうしたことだろう、とおかあさんは思いました。
十分すぎました。まだ車の音が聞こえてきません。おかあさんは心配になって、ひざから綿くずをはらい落としながら、門口に出てみました。
よい月夜で、ねしずまった家いえの屋根の瓦《かわら》が、ぬれて光っていました。道はほのじろくうかびあがり、遠くまで見えていました。けれど遠くには和太郎さんの車のかげはありませんでした。
和太郎さんが夜、家に帰らなかったことといえば、いままでに、ほんのかぞえるほどしかありませんでした。おかあさんは、どんなときに和太郎さんがよそでとまったか、ちゃんとおぼえていました。和太郎さんが小学生だったころ、学校から伊勢参宮《いせさんぐう》をしたときふた晩、それから和太郎さんが若い衆であったころ、吉野山《よしのやま》へ村の若い者たちといっしょにい
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