て、大きい鼻いきをたてつづけにするのでした。
 「あら、いやだよ。この牛は。かじやのふいごのように、ふうふう、いうんだもの」
と、およしばあさんはいいました。
 「まるで、よいどれみたいだよ」
 そのことばで、和太郎さんは、ようやく牛もたくさん飲んだことを思い出しました。そこでおかしくなって、げらげらわらっていいました。
 「それにちげえねえ」
 やっとのことで牛が前あしを立てると、和太郎さんはいよいよ家にむかって出発しました。
 いつも茶屋のおよしばあさんは、和太郎さんが出発してから、かなり長いあいだ、和太郎さんの車の輪がなわて[#「なわて」に傍点]道の上にたてる、からからという音を聞いたものでした。それが、その日は、じききこえなくなってしまいました。へんだとは思いましたが、ばあさんは、あまり気にもとめませんでした。なにしろ、牛飼いと牛と両方がよっぱらっているのですから、どこへいくのやら、なにをするのやら、わかったもんじゃないからです。

       五

 和太郎さんの年とったおかあさんは、ぶいぶいと糸くり車をまわしては、かた目で柱時計《はしらどけい》を見あげ見あげ、夜おそくまで
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