ったときが五晩、そしてやはり若い衆であったころ、毎年村の祭の夜ひと晩ずつ山車《だし》の夜番をしにいったものでした。そのほかに、和太郎さんが、家をあけてよそでとまってきたことは、一ぺんもなかったのです。そこでおかあさんは、だんだん心配になってきました。
 十一時が二十分たちました。まだ和太郎さんは帰ってきません。おかあさんはとうとう決心しました。駐在所《ちゅうざいしょ》のおまわりさんのところへ相談にいったのでした。
 おまわりさんの芝田《しばた》さんは、なにか事件でも起こったかと、電燈の下であわてて黒いズボンをはき、サーベルを腰につるしながら下《お》りてきました。
 しかし芝田さんは、話を聞いて、すこしはりあいがぬけました。
 「そりゃ、また和太さんが一ぱいやったんだろう」
といいました。
 「ンでも、こげなこと、一ぺんもごぜえませんもの。あれにかぎって、いくらよっておっても、十一時にはちゃんと帰ってきますだがのィ」
と、和太郎さんのおかあさんはいいました。そして、十一時が二十分すぎてもまだ帰ってこないのは、きっと、とちゅうでおいはぎ[#「おいはぎ」に傍点]にでもつかまったにちがいないと
前へ 次へ
全32ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング