ったときが五晩、そしてやはり若い衆であったころ、毎年村の祭の夜ひと晩ずつ山車《だし》の夜番をしにいったものでした。そのほかに、和太郎さんが、家をあけてよそでとまってきたことは、一ぺんもなかったのです。そこでおかあさんは、だんだん心配になってきました。
十一時が二十分たちました。まだ和太郎さんは帰ってきません。おかあさんはとうとう決心しました。駐在所《ちゅうざいしょ》のおまわりさんのところへ相談にいったのでした。
おまわりさんの芝田《しばた》さんは、なにか事件でも起こったかと、電燈の下であわてて黒いズボンをはき、サーベルを腰につるしながら下《お》りてきました。
しかし芝田さんは、話を聞いて、すこしはりあいがぬけました。
「そりゃ、また和太さんが一ぱいやったんだろう」
といいました。
「ンでも、こげなこと、一ぺんもごぜえませんもの。あれにかぎって、いくらよっておっても、十一時にはちゃんと帰ってきますだがのィ」
と、和太郎さんのおかあさんはいいました。そして、十一時が二十分すぎてもまだ帰ってこないのは、きっと、とちゅうでおいはぎ[#「おいはぎ」に傍点]にでもつかまったにちがいないと
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