は、じぶんが年をとったことがよくわかりました。そして年をとることは、あほらしいことである、と思ったのでありました。青年団のラッパ手|林平《りんぺい》さんは、月の光でもピカピカ光るよいラッパを持ってきました。こいつなら三里ぐらいは聞こえるだろう、と林平さんは心のなかで得意でした。
そして男たちは、手に手にちょうちんを持って、山にはいっていきました。かね[#「かね」に傍点]やたいこはたたかれ、ほら貝もふかれました。林平さんはラッパをどんなふしでふこうかまよいました。
しかし、きつねにばかされた人間と牛をさがすのには、こういうふしはどれもぴったりしないような気がしましたので、しまいには、ただ「プウーッ、プウーッ」とふしなしでふきました。すると、けなすことのすきな亀菊さんが「まるでゾウのおならみてえだ」といいましたので、林平さんは気をわるくしました。こんなことをいっても亀菊さんは、じっさいにゾウのおならを聞いたことなどありはしなかったのです。
みんなは、あちらこちらとさがしまわりましたが、同じ谷になんども下《お》りたり、同じやぶになんどもはいったり、同じ池をなんどもめぐったりしました。これではまるで、じぶんたちがきつねにばかされているみたいだ、などと思いながら、みんなは十ぺんめにまた、同じ池をぐるりとまわりました。
もうだいぶんくたびれていて、ほら貝やラッパはもう鳴りませんでした。ときどきねぼけたような音でたいこが鳴るだけでした。さてこんなにしてさがしましたが、和太郎さんと牛は見つからなかったのです。それどころか、みんなのうちで、ふたりの人が、どこかへはぐれていってしまったことがわかりました。いやはやです。これでは、いつまでさがしていてもむだなばかりか、かえって損というものです。
もう、池の面《おも》が、にぶく光っていました。そのとき、池のむこうのやぶで、年とったうぐいすがしずかに鳴きましたので、みんなは、やれ朝になったかと思いました。そこで村に帰りました。
六
村の人たちは夜っぴてねなかったうえに、山の中を歩きまわったので、たいへんくたびれて村に帰ってきました。そして、ひとまず駐在所の前にきたのですが、もう立っているのがものういので、道ばたの草をしいて、みんなすわってしまいました。
すると、西の方の学校のうら道を、牛車が一台やってきました。
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