長女  いやよ。あたしがくに[#「くに」に傍点]ちゃんとこのおじさんにいただいてきたのよ。この雛《ひな》は。
三男  だって、ぼくとふたりでだいじにしろっていったって、ねえさん、ぼくにいったじゃないか。
長女  …………
三男  ぼく、手にのせて見たいんだよ。
長女  あれ、うそよ。
三男  なんだい、うそなことあるもんか。くに[#「くに」に傍点]ちゃんとこのおじさん、ぼくとなかよしなんだもの。
長女  いいえ。うそよ。あたし、よし坊ちゃんを喜ばしてやろうと思って、うそいったのよ。ほんとうは、あたしだけにくれたんだわ。
三男  なんだい、ねえさんのうそつき。そんなら、そんなもの、殺しちゃうぞ。
長女  いやだわ、いやだわ。
三男  よこせ、よこせってば。
長女  よし坊ちゃん、いやよ、そんな顔しちゃ。
三男  よこせってば。ねえさんばか。あや子ばか。よこせってば。
[#ここから8字下げ]
(女の子、策つきて箱から雛《ひな》をとり出して病気の子に渡す)
[#ここで字下げ終わり]
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長女  ね、お願いだから、殺さないでね……あっ、いけないわ、
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