そんなににぎっちゃあ……こわいもんだから、足がぶるぶるふるえてるわ……もうはなして……よし坊ちゃん……もうはなしてよ、よし坊ちゃん……。
三男  ぼくの手にふるえが伝わってくるよ。軽いなあ。
長女  かあいそうだわ。足をもがいてるわ。そんなに持ってると、びっくらして死んじまうことよ。
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(病気の子そっと雛をもったまま、長く見ている)
(女の子安心する)
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長女  毛、やわらかいでしょ。

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病気の子、だまって雛をかえす。
女の子箱にしまって、裏口から出ていく。
はやしの音が近づいてくる。
微風《びふう》の中から桜の花びらが病気の子のわきに落ちる。病気の子は動かない。
女の子入ってくる。
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長女  おはやしがこっちへやってくるかね。
三男  塩屋さんとこまでくるきりだい。あそこからまた帰ってしまうんだ。
長女  あの太鼓《たいこ》ね、おキンちゃんとこのにいさんがたたいてるのよ。今年《ことし》はじめてだって
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