さんちの裏だよ。垣根をくぐったときにね、頭に気をつけないと、物置からさがってる樋《とい》にぶつかるよ。
母   あきれた子だね。そんなとこをくぐって遊んだのかい。おかあさんは、そんなところはとおれませんよ。
三男  あそこからいくと、とても早いや。
長女  あそこはもうとおれないのよ。井戸車のお家とめくらのじいさんちの間に、からたちの垣根を結んじまったから。よし坊ちゃんはもう長い間見ないから、知らないんだわ。
母   ではいってきますよ。
三男  かあさん、お医者さん家のかどんとこで、去年の綿砂糖《わたざとう》のおじいさんが売ってたら、買ってきてね。
母   綿砂糖って?
三男  綿みたいになった砂糖だよ。
母   そんなものを、おまえはたべちゃいけないんですよ。かあさんが、卵を買ってきておいしく煮《に》てあげるからね。
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(病気の子、このあたりから力が衰える)
[#ここで字下げ終わり]
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三男  卵なんて、しょっちゅうたべてるんだもの、いやだい。
母   じゃ、お医者さまにきいてみて、たべていいっておっしゃったら、買っ
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