なりました。紅倫《こうりん》もきっと、たくましいわかものになったことだろうと、少佐はよくいいいいしました。
ある日の午後、会社の事務室へ、年わかい中国人がやってきました。青い服に、麻《あさ》のあみぐつをはいて、うでにバスケットをさげていました。
「こんにちは。万年筆いかが」
と、バスケットをあけて、受付の男の前につきだしました。
「いらんよ」
と受付の男は、うるさそうにはねつけました。
「墨《すみ》いかが」
「墨も筆もいらん。たくさんあるんだ」
と、そのとき、おくのほうから青木少佐が出てきました。
「おい、万年筆を買ってやろう」
と、少佐はいいました。
「万年筆やすい」
あたりで仕事をしていた人も、少佐が万年筆を買うといいだしたので、ふたりのまわりによりたかってきました。いろんな万年筆を少佐が手にとって見ているあいだ、中国人は、少佐の顔をじっと見まもっていました。
「これを一本もらうよ。いくらだい」
「一円と二十銭」
少佐は金入れから、銀貨を出してわたしました。中国人はバスケットの始末をして、ていねいにおじぎをして、出ていこうとしました。そのとき、中国人は、ポケッ
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