張紅倫
新美南吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)奉天《ほうてん》大戦争

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)懐中|時計《どけい》をつまみ出して

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)紅倫がせど[#「せど」に傍点]口から顔を出して
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  一

 奉天《ほうてん》大戦争(一九〇五年)の数日まえの、ある夜中のことでした。わがある部隊の大隊長青木少佐は、畑の中に立っている歩哨《ほしょう》を見まわって歩きました。歩哨は、めいぜられた地点に石のようにつっ立って、きびしい寒さと、ねむさをがまんしながら、警備についているのでした。
 「第三歩哨、異状はないか」
 少佐は小さく声をかけました。
 「はっ、異状ありません」
 歩哨のへんじが、あたりの空気に、ひくく、こだましました。少佐は、また、歩きだしました。
 頭の上で、小さな星が一つ、かすかにまたたいています。少佐はその光をあおぎながら、足音をぬすんで歩きつづけました。
 もうすこしいくと、つぎの歩哨のかげが見えようと思われるところで、少佐はどかりと足をふみはず
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