君は平気をよそおって、南の方をむいて立っていた。
負けたふたりはからかいたくなって、上から、
「がんばれッ、がんばれッ、兵タン」
と、声援《せいえん》した。音次郎君も、どういうつもりかそれに声をあわせた。
「かき、たべてしまおかよ」
と徳一君が、いたずらっぽい目を光らせながらささやいたとき、久助君は、そいつは兵太郎君がかわいそうだという気持ちと、そいつはおもしろいという気持ちがいっしょに動いた。兵太郎君をおこらせるのは、とてもおもしろいということを、これまでの経験で、みなよく知っているのである。
川の中の兵太郎君が、聞きつけて、
「こすいぞッ」
と、さけんだ。
そらもうはじまった。はやくしろ、はやくしろ。
徳一君がすばやく、音次郎君の手からかきをうばいとって、ひと口かぶりついた。案のじょう、きび色の美しい果肉があらわれた。それを徳一君からうけとると久助君は、徳一君のかじった反対側のほうを、大きくかじった。そして、あとをもとの音次郎君にわたした。すると、音次郎君もひと口かじったので、かれもまた、このいたずらに参加していることがわかった。
兵太郎君は、いまさらわめいても追っつかぬ
前へ
次へ
全19ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング