者のように自信をもっていった。ほんとうにそうだと、知らないくせに久助君も思った。それにしても、それほどよくきく薬なら、なぜもっと早く持っていってやらなかったのだろう。やがて、いつもは通らない村はずれの常念寺《じょうねんじ》の前にきた。常念寺の土塀《どべい》の西南のすみに、小さな家が土塀によりかかるように、(事実、すこしかたむいている)建っている。それが兵太郎君の家である。ふたりは、土塀にそって歩いていった。兵太郎君の家の前にきた。入口があいていて、中は暗い。人がいるのかいないのか、コトリとも音がしない。日のあたるしきいの上で、ねこが前あしをなめているばかりだ。ふたりの足はとまらなかった。むしろ、足ははやくなった。そして、通りすぎてしまい、それきりだったのである。
久助君は、ほかの友だちとわらったり話したりするのが、きらいになった。そして、ひとりでぼんやりしていることが多かった。それから、ひどく忘れっぽくなった。なにかしかけて忘れてしまうようなことが多かった。いま手に持っていた本が、ふと気づくと、もう手になかった。どこにおいたか、いくら頭をしぼっても思い出せないというふうであった。お使
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