か。しかし、あの川のことがもとで、じっさい兵太郎君は病気になったのなら、兵太郎君がそれをだまっているはずはない。おとうさんかおかあさんに、話したにそういあるまい。そうすれば、おとうさん、あるいはおかあさんの口から、先生のところへ情報はとどいているはずである。ひょっとすると、先生はもうなにもかもごぞんじなのかもしれない。それを、わざと知らんふりをしておられるのは、久助君たちが自首して出るのを待っておられるのではあるまいか。そんなふうに思って、知らず知らず首をすくめながら、先生の顔をうかがうこともあった。
 あるときは、自首したい衝動にひどくかられた。それはちょうど国史の時間であったが、いつもおもしろく聞ける国史の話が、心の中の煩悶《はんもん》のために、ちぎれちぎれになって、ちっともおもしろくないので、こんなになさけないめにあうのも、じぶんがひみつをもっているからだ、いってしまいさえすれば心は解放されるのだ、と思うと、とつじょ立ちあがって、
「先生、ぼくたち三人で、兵太郎君をだまして、病気にしたのです!」
と、さけびたくなった。しかし、平常とすこしも変わらないあたりの空気が、なぜかその衝動
前へ 次へ
全19ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング