な、心のおくで、同じ心配をもっているのだと、久助君はわかった。
徳一君が、ちょっと兵太郎君のつくえのふたをあけた。久助君は心臓《しんぞう》がどきつくのをおぼえた。中には、なにもはいっていなかった。
その日から、兵太郎君は学校へこなくなってしまったのである。
五日、七日、十日と、日はたっていったが、兵太郎君は学校へすがたを見せなかった。しかしだれひとり、兵太郎君のことをくちにするものがない。久助君は、それがふしぎだった。五年間もともに生活したものが、ふいにぬけていっても、あとのものたちは、なにごともなかったように平気でいるのである。だがこれがあたりまえのようにも思われた。
久助君は、徳一君と音次郎君だけはじぶんと同じように、消えてしまった兵太郎君のことで心をいためていることはわかっていた。それだのに、この三人は、ひとことも、兵太郎君についていわないのであった。そればかりでなく、みょうにおたがいの目をおそれて、おたがいにさけあうようになった。
さまざまに、久助君は思いまどった。たとえば、先生にいっさいのことをうちあけて、あやまってしまったらどうだろう。心がかるくなるのではあるまい
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