た。じぶんはとりこし苦労をしていたのかと久助君は思って、ほっとした。なんでもなかったんだ。
音次郎君は久助君といっしょになっても、あいかわらず拍手をつづけながら、じぶんひとりのつまらない考えを追って歩いていた。まもなくうしろから、ゴツゴツとランドセルの音をさせて、だれか走ってきた。森医院の徳一君である。このあいだ新調したばかりのぼうしのひさしを光らせながら、「おはよう」と、元気よく近づいてきた。そして、こうきいた。
「きょう、算術の宿題なかったかね」
徳一君もやはり、きのうのことなんか気にしていないのである。事実、なんでもないのだろう。この世には、そうかんたんに、できごと[#「できごと」に傍点]はおこらないのだ。
三人は教室にはいった。ほかのものはもう、たいていきている。教室の中にも十人ほどいる。そのなかには兵太郎君がいないことを、久助君はひと目でたしかめた。
兵太郎君の席は、徳一君のすぐとなりにあった。用具がそこにはいっているかと思ってそちらを見たとき、久助君は、徳一君もやはりそういう目つきで見ているのを発見した。のみならず、音次郎君もやはり、兵太郎君の席を見ていた。
みん
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