んぼが今の赤とんぼなんですよ。だから、赤とんぼは良くないとんぼです。」
書生《しょせい》さんのお話は終わりました。
私《わたし》は、そんな酷《むご》い事をしたおぼえはないがと、赤とんぼが、首をひねって考えましたとき、おじょうちゃんが大声でさけびました。
「嘘《うそ》だ嘘《うそ》だ! 山田のお話は、みんな嘘《うそ》だよ。あんなかあいらしい赤とんぼが、そんな酷《むご》い事をするなんて、蜘蛛《くも》の赤血だなんて――みんな嘘《うそ》だよ。」
赤とんぼは、真実《ほんとう》にうれしく思いました。
例の書生さんは、顔をあかくして行ってしまいました。
窓《まど》から離《はな》れて、赤とんぼは、おじょうちゃんの肩《かた》につかまりました。
「まア! あたしの赤とんぼ! かあいい赤とんぼ!」
おじょうちゃんの瞳《ひとみ》は、黒く澄《す》んでいました。
暑《あつ》かった夏は、いつの間にかすぎさってしまいました。
朝顔《あさがお》は、垣根《かきね》にまきついたまま、しおれました。
鈴虫《すずむし》が、涼《すず》しい声でなくようになりました。
今日も、赤とんぼは、おじょうちゃんに会いにやっ
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