て、「ゆうかんなる水兵」の曲をウウウ、ウ、ウと、うたいだしました。
 それは、いつも、正坊とクロが舞台に出ていくときの、たのしい曲なのです。クロは正坊のうた声をきいて、しばらく耳をぴくぴくさせていましたが、やがてヒョコリと立ちあがりました。正坊がすかさず、手のひらの丸薬を口の中へおしこむと、クロはぞうさなく、ペロリとのみこみました。
 こんなことがあってから、正坊とクロは、まえよりもまたいっそう、はなれられないなかよしになり、見物人からも、団の人気者にされました。
 これも、やはり、ある村で興行《こうぎょう》していたときでした。いつも正坊やクロといっしょに出て、喜劇をする道化役《どうけやく》の佐吉《さきち》さんが、一座からぬけて、にげ出してしまったので、そのかわりを、ふとった団長がつとめることになりました。
「クロ、出る番だよ」
 正坊はクロをおりの中から出すと、れいによって鼻のうえをなでさすりながら、クロの大すきなビスケットを、口の中へいれてやりました。
 舞台では留《とめ》じいさんが「ゆうかんなる水兵」のラッパを、ならしはじめました。
[#ここから2字下げ]
ラロララ、ラララ、

前へ 次へ
全11ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング