て、「ゆうかんなる水兵」の曲をウウウ、ウ、ウと、うたいだしました。
それは、いつも、正坊とクロが舞台に出ていくときの、たのしい曲なのです。クロは正坊のうた声をきいて、しばらく耳をぴくぴくさせていましたが、やがてヒョコリと立ちあがりました。正坊がすかさず、手のひらの丸薬を口の中へおしこむと、クロはぞうさなく、ペロリとのみこみました。
こんなことがあってから、正坊とクロは、まえよりもまたいっそう、はなれられないなかよしになり、見物人からも、団の人気者にされました。
これも、やはり、ある村で興行《こうぎょう》していたときでした。いつも正坊やクロといっしょに出て、喜劇をする道化役《どうけやく》の佐吉《さきち》さんが、一座からぬけて、にげ出してしまったので、そのかわりを、ふとった団長がつとめることになりました。
「クロ、出る番だよ」
正坊はクロをおりの中から出すと、れいによって鼻のうえをなでさすりながら、クロの大すきなビスケットを、口の中へいれてやりました。
舞台では留《とめ》じいさんが「ゆうかんなる水兵」のラッパを、ならしはじめました。
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ラロララ、ラララ、
ラ
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