くるようです。ドアのむこうにお千代《ちよ》さんの顔を見つけだすと、正坊はとびあがってよろこびました。
「ねえさん、ぼく、もうなおったよ。さっきもここで、とんぼがえりをうってみたの」
 お千代さんは、いつも正坊を、ほんとうの弟のようにかわいがっているのでした。
「へえ、早くなおってよかったわね。あのね、正《しょう》ちゃん、たいへんなのよ。クロがはらいたをおこしちゃって、お薬をのませようとしても、のまないの。みんなこまっているの。だから正ちゃんをよびにきたのよ」
「クロが? ではぼく、かえる。もう、すっかりいいんだもの」
 ふたりは院長さんにおゆるしをいただいて、いっしょに馬にのって、かえっていきました。かんごふさんは、門の外へまで出て、見おくってくれました。

       三

「クロ、ぼくだよ。クロ」
 正坊《しょうぼう》は手のひらに丸薬をのせて、右手でかるく、クロの鼻のうえをなでさすりました。クロはさっきよりは、いくらかおちついていましたが、でも目のいろは、まだとろりとうるんで、生気《せいき》がありません。ふうふういきをするたびに、鼻さきのわらくずが動きます。
 正坊はふと思いつい
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