正坊とクロ
新美南吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)興行《こうぎょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ふといだみ[#「だみ」に傍点]声で
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       一

 村むらを興行《こうぎょう》して歩くサーカス団がありました。十人そこそこの軽業師《かるわざし》と、年をとった黒くまと馬二とうだけの小さな団です。馬は舞台に出るほかに、つぎの土地へうつっていくとき、赤いラシャの毛布などをきて、荷車をひくやくめをもしていました。
 ある村へつきました。座員たちは、みんなで手わけして、たばこ屋の板かべや、お湯屋のかべに、赤や黄色ですった、きれいなビラをはって歩きました。村のおとなも子どもも、つよいインキのにおいのするそのビラをとりまいて、おまつりのようによろこびさわぎました。
 テントばりの小屋がかかってから、三日めのお昼すぎのことでした。見物席から、わあっという歓声といっしょに、ぱちぱちと拍手の音がひびいてきました。すると、ダンスをおわったお千代《ちよ》さんが、うすももいろのスカートをひらひらさせて、舞台うらへひきさがってきまし
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