させています。
 見物席のほうからは、つぎの出しものをさいそくする拍手の音が、パチパチひびいてきます。そこでとうとう、道化役《どうけやく》の佐吉《さきち》さんが、クロにかわって、舞台に出ることにしました。そのとき、だれかが、
「正坊《しょうぼう》がいたら、薬をのむがなあ」
と、ためいきをつくようにいいました。団長は、
「そうだ。お千代《ちよ》、正坊をつれてこい」
と、ふといだみ[#「だみ」に傍点]声でめいじました。お千代は馬を一とうひきだして、ダンスすがたのまま、ひらりとまたがると、白いたんぼ道を、となり村へむかってかけていきました。

       二

 正坊《しょうぼう》は初日《しょにち》のはしごのりで、足をひねってすじをつらせ、となり村の病院にはいっているのです。
 正坊の病室のまどぎわには、あおぎりが葉っぱをひろげて、へやの中へ青いかげをなげいれていました。正坊は白いねまきのまま、ベッドの上にすわってあおぎりのみきは、ぞうの足みたいだなあと思いながら、ガラスのむこうをながめていました。すると、門のほうで、ひづめの音がしました。やがてだれかが、ろうかをつたわって、こちらへやって
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