も羽織を貸してやろうとはいいませんでした。
文六ちゃんの屋敷の外囲いになっている槙《まき》の生垣《いけがき》のところに来ました。背《せ》戸口《どぐち》の方の小さい木戸をあけて中にはいりながら、文六ちゃんは、じぶんの小さい影法師《かげぼうし》を見てふと、ある心配を感じました。
――ひょっとすると、じぶんはほんとうに狐につかれているかもしれない、ということでした。そうすると、お父さんやお母さんはじぶんをどうするだろうということでした。
六
お父さんが樽屋さんの組合へいつて、今晩はまだ帰らないので、文六ちゃんとお母さんはさきに寝《やす》むことになりました。
文六ちゃんは初等科三年生なのにまだお母さんといっしょに寝るのです。ひとり子ですからしかたないのです。
「さあ、お祭の話を、母ちゃんにきかしておくれ」
とお母さんは、文六ちゃんのねまきのえりを合わせてやりながらいいました。
文六ちゃんは、学校から帰れば学校のことを、町にゆけば町のことを、映画を見てくれば映画のことをお母さんにきかれるのです。文六ちゃんは話が下手《へた》ですから、ちぎれちぎれに話をします。それでもお
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