らしい。久助君の手が、あやまって相手のわきのしたから、熱《ねつ》っぽいふところにもぐりこんだとき、兵太郎君はクックッとわらったからである。
 相手がじょうだんでやっているのなら、こちらだけしんけんでやっているのは、男らしくないことなので、こちらもそのつもりになろうと思っていると、まもなくまた、まえの疑問があたまをもたげる。
 ふたつの疑問が交互《こうご》にあらわれたり消えたりしたが、ふたりはともかくくるいつづけた。
 久助君は顔をほし草におしつけられて、ほし草をくわえたり、ほし草があるつもりでひっくり返ったところにほし草がなくて、頭をじかに地べたにぶつけ、じーんと頭じゅうが鳴りわたって、あついなみだがうかんだりした。
 また、しっかりと、複雑に、手足を相手の手足にからませているときは、じぶんと相手の足の区別など、はっきりつかないので、相手の足をおさえつけたつもりで、じぶんのもう一方の足をおさえつけたりしていることもあった。
 とっくみあいは、夕方までつづいた。おびはゆるみ、着物はだらしなくなってしまい、じっとりあせばんだ。
 なんどめかに、久助君が上になって兵太郎君をおさえつけたら、も
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