と、久助君はいった。
「やだ。きのう、すもうしとって、そでちぎって、家でしかられたもん」
と、兵太郎君がこたえる。そして、ひざをびんぼうゆるぎさせながら、あおむけに空を見ている。
「んじゃ、かえるとびやろかァ」
と、久助君がいう。
「あげなもな、おもしろかねえ」
と、兵太郎君は一言のもとにはねつけて、鼻をキュッと鳴らす。
久助君はしばらくだまっていたが、ものたりなくてしょうがない。ころころと兵太郎君の方へころがり近づいていって、草の先を、あおむいている兵太郎君の耳の中へ入れようとした。
兵太郎君はほらふき[#「ほらふき」に傍点]で、ひょうきん[#「ひょうきん」に傍点]で、人をよくわらわせるが、こういう種類のからかいはあまりこのまない。自尊心《じそんしん》がきずつけられるからだ。
「やめよォッ」
と、兵太郎君がどなった。
兵太郎君がおこって、久助君にむかってくれば、それは久助君の望むところだった。
「あんまり耳くそがたまっとるで、ちょっとそうじしてやらァ」
といって、久助君はまた草の先で、兵太郎君の頭にぺしゃんとはりついた耳をくすぐる。
兵太郎君はおこっているつもりであったが、
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