医者の家へなんか集まっていることもあるまいが、ともかくのぞいてみようと思って、黄色《きいろ》い葉のまじった豆畑のあいだを、徳一《とくいち》君の家の方へやっていった。そのとちゅう、ほし草の積みあげてあるそばで、兵太郎《へいたろう》君にひょっくり出あったのである。
 兵太郎君は、みんなからほら兵[#「ほら兵」に傍点]とあだ名をつけられていたが、まったくそうだった。こんなうなぎをつかんだといって、両方の手の指で、てんびんぼうほどの太さをして見せるので、ほんとうかと思っていってみると、筆ぐらいのめそきん[#「めそきん」に傍点]が、井戸ばたの黒いかめの底にしずんでいるというふうである。また、兵太郎君はおんちで、君が代もろくろくうたえなかったが、いっこうそんなことは気にせず、みんなが声をそろえてうたっていると、すぐ唱和するので、みんなは調子がへんになって、やめてしまうのであった。だが、わる気はないので、みんなにきらわれてはいない。ときどき鼻をすこし右にまげるようにして、キュッと音をたててすいあげるのと、わらうとき、ゆかの上だろうが道の上だろうが、ところきらわず下にころがるくせがあった。
 体操《た
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