らしてあげよう。あのへんは、みな、わしの土地《とち》だから。うん、そうして、井戸《いど》を掘《ほ》る費用《ひよう》がたりなかったら、いくらでもわしが出《だ》してあげよう。わしは明日《あした》にも死《し》ぬかも知《し》れんから、このことを遺言《ゆいごん》しておいてあげよう。」
 海蔵《かいぞう》さんは、思《おも》いがけない言葉《ことば》をきいて、返事《へんじ》のしようもありませんでした。だが、死《し》ぬまえに、この一人《ひとり》の慾《よく》ばりの老人《ろうじん》が、よい心《こころ》になったのは、海蔵《かいぞう》さんにもうれしいことでありました。

  六

 しんたのむね[#「しんたのむね」に傍点]から打《う》ちあげられて、少《すこ》しくもった空《そら》で花火《はなび》がはじけたのは、春《はる》も末《すえ》に近《ちか》いころの昼《ひる》でした。
 村《むら》の方《ほう》から行列《ぎょうれつ》が、しんたのむね[#「しんたのむね」に傍点]を下《お》りて来《き》ました。行列《ぎょうれつ》の先頭《せんとう》には黒《くろ》い服《ふく》、黒《くろ》と黄《き》の帽子《ぼうし》をかむった兵士《へいし》が
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