しは、あやまりに参《まい》りました。井戸《いど》のことは、もうお願《ねが》いしません。またどこか、ほかの場所《ばしょ》をさがすとします。ですから、あなたはどうぞ、死《し》なないで下《くだ》さい。」
と、いいました。
 老人《ろうじん》は黙《だま》ってきいていました。それから長《なが》いあいだ黙《だま》って海蔵《かいぞう》さんの顔《かお》を見上《みあ》げていました。
「お前《まえ》さんは、感心《かんしん》なおひとじゃ。」
と、老人《ろうじん》はやっと口《くち》を切《き》っていいました。
「お前《まえ》さんは、心《こころ》のええおひとじゃ、わしは長《なが》い生涯《しょうがい》じぶんの慾《よく》ばかりで、ひとのことなどちっとも思《おも》わずに生《い》きて来《き》たが、いまはじめてお前《まえ》さんのりっぱな心《こころ》にうごかされた。お前《まえ》さんのような人《ひと》は、いまどき珍《めずら》しい。それじゃ、あそこへ井戸《いど》を掘《ほ》らしてあげよう。どんな井戸《いど》でも掘《ほ》りなさい。もし掘《ほ》って水《みず》が出《で》なかったら、どこにでもお前《まえ》さんの好《す》きなところに掘《ほ》
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