《き》こえて来《き》ました。だいぶ地主《じぬし》の体《からだ》が弱《よわ》ったことがわかりました。
「あんたは、また来《き》ましたね。親父《おやじ》はまだ生《い》きていますよ。」
と、出《で》て来《き》た息子《むすこ》さんがいいました。
「いえ、わしは、親父《おやじ》さんが生《い》きておいでのうちに、ぜひおあいしたいので。」
と、海蔵《かいぞう》さんはいいました。
老人《ろうじん》はやつれて寝《ね》ていました。海蔵《かいぞう》さんは枕《まくら》もとに両手《りょうて》をついて、
「わしは、あやまりに参《まい》りました。昨日《きのう》、わしはここから帰《かえ》るとき、息子《むすこ》さんから、あなたが死《し》ねば息子《むすこ》さんが井戸《いど》を許《ゆる》してくれるときいて、悪《わる》い心《こころ》になりました。もうじき、あなたが死《し》ぬからいいなどと、恐《おそ》ろしいことを平気《へいき》で思《おも》っていました。つまり、わしはじぶんの井戸《いど》のことばかり考《かんが》えて、あなたの死《し》ぬことを待《ま》ちねがうというような、鬼《おに》にもひとしい心《こころ》になりました。そこで、わ
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