いで、井戸《いど》を掘《ほ》らせてくれる、これはうまいと思《おも》いました。
 その夜《よる》、夕飯《ゆうはん》のとき、海蔵《かいぞう》さんは年《とし》とったお母《かあ》さんに、こう話《はな》しました。
「あのがんこ者《もん》の親父《おやじ》が死《し》ねば、息子《むすこ》が井戸《いど》を掘《ほ》らせてくれるそうだがのオ。だが、ありゃ、もう二、三|日《にち》で死《し》ぬからええて。」
 すると、お母《かあ》さんはいいました。
「お前《まえ》は、じぶんの仕事《しごと》のことばかり考《かんが》えていて、悪《わる》い心《こころ》になっただな。人《ひと》の死《し》ぬのを待《ま》ちのぞんでいるのは悪《わる》いことだぞや。」
 海蔵《かいぞう》さんは、とむね[#「とむね」に傍点]をつかれたような気《き》がしました。お母《かあ》さんのいうとおりだったのです。
 次《つぎ》の朝《あさ》早《はや》く、海蔵《かいぞう》さんは、また地主《じぬし》の家《いえ》へ出《で》かけていきました。門《もん》をはいると、昨日《きのう》より力《ちから》のない、ひきつるようなしゃっくり[#「しゃっくり」に傍点]の声《こえ》が聞
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