《み》せてやろかい。」といって出《で》たくなるのでしたが、それをがまんしていました。これはたいへんつらいことでありました。
 はやく、お客《きゃく》がくればいいのになあ、と海蔵《かいぞう》さんは眼《め》をほそめて明《あか》るい道《みち》の方《ほう》を見《み》ていました。しかしお客《きゃく》よりさきに、茶店《ちゃみせ》のおかみさんが、焼《や》きたてのほかほかの大餡巻《おおあんまき》をつくってあらわれました。
 人力曳《じんりきひ》きたちは、大《おお》よろこびで、一|本《ぽん》ずつとりました。海蔵《かいぞう》さんもがまんできなくなって、手《て》が少《すこ》しうごきだしましたが、やっとのことでおさえました。
「海蔵《かいぞう》さ、どうしたじゃ。一|銭《せん》もつかわんで、ごっそりためておいて、大《おお》きな倉《くら》でもたてるつもりかや。」
と、源《げん》さんがいいました。
 海蔵《かいぞう》さんは苦《くる》しそうに笑《わら》って、外《そと》へ出《で》てゆきました。そして、溝《みぞ》のふちで、かやつり草《ぐさ》を折《お》って、蛙《かえる》をつっていました。
 海蔵《かいぞう》さんの胸《むね》
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