の中《うち》には、拳骨《げんこつ》のように固《かた》い決心《けっしん》があったのです。今《いま》までお菓子《かし》につかったお金《かね》を、これからは使《つか》わずにためておいて、しんたのむね[#「しんたのむね」に傍点]の下《した》に、人々《ひとびと》のための井戸《いど》を掘《ほ》ろうというのでありました。
 海蔵《かいぞう》さんは、腹《はら》も歯《は》もいたくありませんでした。のどから手《て》が出《で》るほど、お菓子《かし》はたべたかったのでした。しかし、井戸《いど》をつくるために、今《いま》までの習慣《しゅうかん》をあらためたのでありました。

  五

 それから二|年《ねん》たちました。
 牛《うし》が葉《は》をたべてしまった椿《つばき》にも、花《はな》が三つ四つ咲《さ》いたじぶんの或《あ》る日《ひ》、海蔵《かいぞう》さんは半田《はんだ》の町《まち》に住《す》んでいる地主《じぬし》の家《いえ》へやっていきました。
 海蔵《かいぞう》さんは、もう二《ふ》タ月《つき》ほどまえから、たびたびこの家《いえ》へ来《き》たのでした。井戸《いど》を掘《ほ》るお金《かね》はだいたいできたのです
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