て、受《う》けそこなった数《かず》のすくないものが、相手《あいて》に別《べつ》の菓子《かし》を買《か》わせたりしたものでした。そして海蔵《かいぞう》さんは、この芸当《げいとう》ではほかのどの人力曳《じんりきひ》きにも負《ま》けませんでした。
 しかし、きょうは海蔵《かいぞう》さんはいいました。
「朝《あさ》から奥歯《おくば》がやめやがってな、甘《あま》いものはたべられんのだてや。」
「そうかや、そいじゃ、由《よし》さ、やろう。」
といって、源《げん》さんは由《よし》さんと、それをはじめました。
 二人《ふたり》は色《いろ》とりどりの金平糖《こんぺいとう》を、天井《てんじょう》に向《む》かって投《な》げあげてはそれを口《くち》でとめようとしましたが、うまく口《くち》にはいるときもあれば、鼻《はな》にあたったり、たばこぼんの灰《はい》の中《なか》にはいったりすることもありました。
 海蔵《かいぞう》さんは、じぶんがするなら、ひとつもそらしはしないのだがなあ、と思《おも》いながら見《み》ていました。あまり源《げん》さんと由《よし》さんが落《お》としてばかりいると、「よし、おれがひとつやって見
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