、つまんだ油菓子《あぶらがし》をまたもとの箱《はこ》に入《い》れてしまいました。
 見《み》ていた仲間《なかま》の源《げん》さんが、
「どうしただや、海蔵《かいぞう》さ。あの油菓子《あぶらがし》は鼠《ねずみ》の小便《しょうべん》でもかかっておるだかや。」
といいました。
 海蔵《かいぞう》さんは顔《かお》をあかくしながら、
「ううん、そういうわけじゃねえけれど、きょうはあまり喰《た》べたくないだがや。」
と、答《こた》えました。
「へへエ。いっこう顔色《かおいろ》も悪《わる》くないようだが、それでどこか悪《わる》いだかや。」
と、源《げん》さんがいいました。
 しばらくして源《げん》さんは、ガラス壺《つぼ》から金平糖《こんぺいとう》を一掴《ひとつか》みとり出《だ》すと、そのうちの一つをぽオいと上《うえ》に投《な》げあげ、口《くち》でぱくりと受《う》けとめました。そして、
「どうだや、海蔵《かいぞう》さ。これをやらんかや。」
といいました。海蔵《かいぞう》さんは、昨日《きのう》まではよく源《げん》さんと、それ[#「それ」に傍点]をやったものでした。二人《ふたり》で競争《きょうそう》をやっ
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